西秦時代の石窟寺院 炳霊寺を観光(2025/7/28)

中国

ニイハオ!今日は蘭州郊外にある炳霊寺石窟を日帰り観光します。

炳霊寺石窟(へいれいじせっくつ/Bǐnglíng Sì)は、中国甘粛省臨夏回族自治州永靖県の黄河沿いに築かれた大規模な石窟群です。

西秦の建弘元年(420年)に最初の窟が掘られたとされ、中国石窟造営史の中でも最古級の題記が残る遺跡です。黄河の峡谷に沿って約200メートルにわたり石窟が連なり、現存する洞窟は183、石彫像694体、泥塑像82体、壁画は約900平方メートルに及びます。窟は4層構造をなし、崖面に架けられた桟道を通って巡拝するよう設計されています。

代表的な窟には、西秦期の題記をもつ第169窟があります。ここは自然洞を利用した大空間で、24の龕に76体の仏像が並び、飛天や蓮華文様などを描いた壁画が残ります。第172窟も規模が大きく、如来坐像や供養人像を中心に唐代の彩色が見られます。ほかにも第192窟、第195窟などに説法図や如来立像の壁画が残され、石胎塑造や線刻など多様な技法が確認されています。

造営は西秦から北魏、隋、唐、宋、元、明、清へと受け継がれ、特に唐代には多数の新窟と彩色補修が行われました。石窟名は時代により変遷し、唐代には龍興寺、宋代には霊岩寺と呼ばれ、明の永楽年間に現在の炳霊寺となりました。名称の「炳霊」はチベット語で「千仏」を意味するといわれています。

2014年には「シルクロード:長安-天山回廊の交易路網」の一部として世界遺産に登録され、黄河峡谷の自然景観とともに、多時代にわたる仏教美術の変遷を伝える貴重な遺跡となっています。

炳霊寺は中国三大石窟(敦煌の莫高窟、大同の雲崗石窟、洛陽の龍門石窟)と比べるとマイナーだと思いますが、成立年代は敦煌の次に古く世界遺産にも登録されています。

今いる蘭州西駅付近からだと、炳霊寺石窟まで以下のようなルートで行くことができます。

  • 路線バスで蘭州西バスターミナルへ
  • 郊外バスで劉家峡(刘家峡)へ
  • タクシーor徒歩で旅客中心(炳灵寺 坝码头游客服务中心)へ
  • 観光船で炳霊寺石窟へ

※最近 炳霊寺まで車でも行けるようになりましたが、旅客中心からのバスはありません。車で行く場合は自分でタクシーのチャーターが必要そう。

郊外バスで劉家峡へ

まずはホテルの前から路線バスに乗り、蘭州西バスターミナルへ向かいます。運賃がAlipayのバスカードでうまく決済できなかったため現金で支払いました。

バスターミナル近くの停留所で降りてターミナルを探しますが、それらしい建物が見当たりません。

近くにいたおじさんに聞くとターミナルへの入口を教えてくれました。どうやら幹線道路に面しているわけではなく、道の脇にある細い通路の先にあるらしい。

左の建物脇の通路に入る

話の流れで炳霊寺に行くことを伝えると、「運賃は23元だよ」と教えてくれました。なぜ運賃まで知ってる?必要な情報全部教えてくれたのでゲームのチュートリアルキャラみたいだなと思いました。

通路を進むと小さなバスターミナルがありました。窓口で劉家峡までのチケットを購入(23元、約460円)。

ターミナルから出てプラットフォーム(というよりは駐車場)へ行くと、劉家峡行きのバスが数台停まっています。

どれに乗ればいいかわからなかったため近くにいた係員らしきおじさんに聞くと、「まだ出発するかわからないからその辺で待っとけ」と言われます。時刻表では9時発となっているものの、客が揃ったら発車する運用のよう。

待合室で座っていると9時前に出発の呼び出しがありました。バスには乗客が次々と乗り込みほぼ満席に。バスターミナル入り口で話したおじさんと、駐車場で話したおじさんも同じ乗客でした。だからチケットの料金とか知ってたのか。

バスは黄河沿いを西へ向かって走ります。河に沿って公園が作られていて、ダンスや合唱をする人々で賑わっています。

30分ほどで郊外へ出て山道に入ります。この辺から結構な崖です。

蘭州を出て2時間ほど、11時少し前に劉家峡へ到着しました。

劉家峡はてっきり炳霊寺への拠点があるだけの小さな田舎町かと思いきや、高層住宅もちらほらある大きな街です。乗客のほとんどは炳霊寺ではなく街自体に用事がある人のよう。話したおじさんも仕事で来たと言っていました。

バスの降車場所で客待ちしていたタクシーを捕まえて、炳霊寺の旅客中心へ向かいます(6元、約120円)。

高速ボートで炳霊寺へ

旅客中心のチケット売り場で炳霊寺への入場券(50元)と船のチケット(160元)を購入(合計210元、約4,200円)。

ここでは炳霊寺行きの船だけでなく、遊覧船のチケットなんかも販売しています。

炳霊寺への船については以下のルールとなっているようです。

  • 船ごとに人が揃えば出発
  • 往復とも同じ船に乗る
  • 現地での観光時間は90分

ですので、行き帰りで交通手段を分けたり、長めに滞在したりはできません。

二種類ある船種のうち、所要約60分 160元の高速ボート(小快艇)を選ぶ人がほとんど。大型高速船(大快艇)だと運賃は130元と若干安いものの1時間40分ほどかかります。

入場ゲートを通って船着き場に到着。

少し待つと人数が揃いました。渡された救命胴衣を装着して船内へ。

小さなボートに入り口は手前側のひとつだけ。もし沈みそうになったらパニックの中でこの狭い入口から抜けだせるか不安だな。

ボートは11時ごろに埠頭を出発し軽快に進みます。ちょっとしたボートクルーズも楽しめてお得感があります。

ダム湖あたりではエメラルドグリーンだった水の色が、黄河に入ると茶色に変わります。

地層ごとに色調が異なるカラフルな山々が広がっています。

黄河へ入ってしばらく進むと周囲は切り立った崖に。この風景は結構すごいな。こうして削られた土が黄河に溶け込んでいるのか。

炳霊寺石窟

炳霊寺の埠頭には12時過ぎに到着しました。

船頭さんに「13時半に戻れ」と言われ解散です。

聞いていた90分より若干短いので少しゴネましたが、他の乗客は下船して解散していますし揉めている時間も惜しい。早足で景区内へ向かいます。

この辺の標高はだいたい2,000メートルくらい。もっと涼しいかと思いましたが日差しが強いので暑く感じます。

チケットゲートの脇に窓口があり、特別窟という別料金の石窟への入場チケットが売っています。特別窟の入場料はこんな感じです。

洞窟名価格(元)円換算備考
169窟、172窟300元約6,000円窟が一体なのでばら売りはない
126窟80元約1,600円
128窟60元約1,200円
132窟90元約1,800円

入場料50元に対し、特別窟を全部見ると530元(約10,600円)と10倍以上の値段です。まあ入場料安くして取れるところから取るって意味ではいいと思う。

特別窟もできるだけ見るつもりなんですが、チケットを買ったのに時間がなくて見学できないという事態は避けたいところ。窓口の係員に聞くと園内でも特別窟のチケットは買えるそう。後で考えることにしてそのまま入場します。

数分歩くと石窟が広がるエリアに着きました。

炳霊寺の造営が最も盛んだったのは西秦から唐代(5〜8世紀)。

初期のものは窟内造像という洞窟内に掘られたものが多いよう。これは壁画・彩色・塑像を組み合わせ、仏の世界を内部に再現する意図があったらしい。

いうか壁画の色が残っているのがすごいな。宋代以降も補修はしていたようなので流石に当時のままではないと思いますが。

一方、壁面造像と言われる壁面に直接掘ったものも目立ちます。これは唐代以降に比較的多く、仏の威容を広く人々に示す目的があったそう。

壁面造像で最も目立つのは、唐代に彫られた高さ約27メートルの大きな弥勒仏像です。

上部にある二つの穴はそれぞれ西秦・北魏時代の石窟で、これらが特別窟として公開されています。

特別窟はこの周辺に固まっており、低いフェンスで仕切られています。

特別窟入り口の警備員さんと話して、メインとなる169特別窟と172特別窟のセットチケット300元(約6,000円)を購入(チケット料金を警備員にAlipayで支払えばよい)。

169特別窟

炳霊寺石窟第169窟は、西秦時代(5世紀前半)に開削された初期の石窟の一つで、炳霊寺石窟群の中でも保存状態が比較的良いことで知られています。

窟内は方形平面をもち、天井は四隅を削ってドーム状にした覆斗形天井で、初期仏教石窟の典型的な形式を示しています。

主尊の釈迦坐像は、衣の襞や顔立ちにガンダーラの影響が見られ、両脇侍の菩薩像や弟子像とともに整然と配置されています。壁面には浄土変や本生図が描かれ、当時の彩色が部分的に残っています。彩色は赤、緑、藍を基調とし、敦煌莫高窟の初期壁画とも近い技法が用いられています。

炳霊寺石窟群全体の中でも169窟は造営年代が古く、麦積山石窟や敦煌莫高窟初期窟と並び、中国仏教石窟の発展過程を理解する上で重要な資料となっています。

169窟の高さは40mほどで、弥勒仏の脇に木の足場と階段が組まれています。これ当時はどうやって登ってたんだろうな。

階段は結構急ですが高度感はありません。特別窟の中は撮影禁止です。

上まで登ると警備員とガイドさんがいて、ガイドさんは定期的に窟内の解説をやってくれるらしい(中国語のみ)。まあ高い金払ってるしな。

次の解説は10分後ということで少し待ちます。その間、一人で中を見学していたのですが、警備員さんがずっと後についてきます(おそらく写真とか撮らせないため)。こんな監視があるのは初めてです。

結局、解説が始まるまでに集まったのは10人くらい、全員が中国人でした(そもそも外国人観光客が全然いない)。

解説は何を言ってるかはわかりませんが、ポイントをライトで照らしてくれるので見所っぽい場所はわかります。しばらくガイドさんについていきながら窟内を見学。

はがれかけの壁画や、ひび割れた洞窟の隙間を埋める粘土、板の上に置かれた塑像、大量の仏画、その裏に掘られた文字とか。

何か派手な造形があるわけじゃないんですが、原初の祈りの場みたいな雰囲気が感じられてとてもよかった。

値段に見合うかは人それぞれでしょうけど、特別窟を見たかどうかで炳霊寺への印象は全く違いそうです。

172特別窟

第172窟は北朝時代(北魏~北周期)に開かれ、三尊仏と両脇侍を配した正壁・南壁構成の造像が認められます。  また、北壁下部には五体の立像(五如来像)が設けられています。

壁画は後世の加修もあるものの、主構成部分には北周期の意匠傾向が残るとされ、衣文の彫法や像容は北朝末期仏教美術の変遷を反映しています。  

ガイドさんが169窟に続けて解説してくれます。

169窟とは木の桟橋で繋がっており、169窟よりはだいぶ小さい。照明とかはないので結構暗いですが、淡く残る色彩がわかります。千数百年の風雨を経てなお残るものもあるんだな……。

桟橋からの眺め。外は撮影OK

13時10分を過ぎ、そろそろ戻らないと船の集合時間に間に合わなそう。解説はまだ途中ですが帰ります。

高速ボートへ旅客中心へ

特別窟以降は石窟もないため急ぎ足で戻り、13時半ごろにボート乗り場へ到着しました。

滞在時間が少し短かったせいもありますが、かなり早足で歩いて特別窟二つでギリギリでした。特別窟の解説は全部聞けませんでしたし、他の特別窟も見ていたら絶対間に合わないだろう時間設定です。

特別窟を全部見たいなら時間が自由になるタクシーでここまで来たほうがよさそう。ですが、そうすると黄河クルーズが楽しめなくなるというジレンマ。滞在時間90分というシステムは特別窟を見たい人には嬉しくないな。

埠頭で自分が乗ってきた船を探しますが見当たりません。近くにいた別の船頭さんに船名の写真を見せて聞くと、僕のボートの船頭さんに電話して呼んでくれました。

そうこうしているうちに他の乗客も揃い、旅客中心へ戻ります。

帰り道ではこれから炳霊寺へ向かうボートとすれ違うことが多く、その航走波でボートが飛び跳ねるように揺れます。

乗合タクシーで蘭州西へ

14時半過ぎに旅客中心に到着。ここから蘭州西へ帰ります。

劉家峡から蘭州西へのバスは百度地図で調べても出てきません。まあ往路があるんだから存在はしているはず。

とりあえずバスターミナルへ行こうかと旅客中心を出ると、客待ちしていた乗り合いタクシーに声をかけられました。運賃は50元(約1,000円)とバスの倍くらいですが時間と手間を考えれば全然いいか。

もともといた乗客二名に加えてもう一人乗客をピックアップして蘭州へ向かいます。好きなところまで送ってくれるそうですが、場所の説明が難しかったので蘭州西駅で降ろしてもらいます。所要時間はだいたい一時間で、バスの半分くらいの時間で戻ってこれました。

明日は西安へ向かいます。