今日から五日間かけて、モンゴルの西の果てに広がるタバン・ボグド国立公園を観光します。
モンゴル西端、アルタイ山脈の壮大な自然を抱くタバン・ボグド(Tavan Bogd)国立公園は、雄大な山岳風景と多様な文化が交差する場所です。
「タバン・ボグド」とは「五つの聖なる山」を意味し、その最高峰フィティン山(海抜4,374m)をはじめ、万年雪に覆われた山々が連なります。公園内には氷河、澄んだ湖、高山草原が広がり、野生のアイベックスやアルガリ羊、ワシなど貴重な生物も生息しています。
また、この地はカザフ族やトゥバ族など遊牧民の暮らしが息づくエリアで、鷹狩りや伝統的なゲルでの滞在体験も魅力。
手つかずの大自然と人々の文化が調和する、モンゴル屈指の秘境です。
タバン・ボグドへの拠点はモンゴル西部にあるオルギーという町です。オルギーからタバン・ボグドの入り口までは4WDで道なき道を走って7〜8時間ほど。公園の面積は6,362㎢と東京都の三倍くらいの広さです。近くに町もないため公共交通機関はおろか観光客以外の往来がほとんどありません。
個人で観光するのは難しいため、僕はツアーを手配して行くことにしました。
ツアー手配
準備を始めたのは去年末ごろ。
いくつかの旅行会社にメールで連絡してみたのですが、冬季で営業してなかったり、途中で返事が返ってこなくなったりとイマイチ。結局、対応がまともだった一社にお願いすることにしました。
最初は一週間くらいのプライベートツアーを考えていたのですが、観光ピークである七月は一人でのツアーアレンジは受け付けていないそう。グループツアーなら参加できるということでお願いしました。
グループツアーといっても人気観光地のように毎日出発しているわけではなく、月に一度くらいの会社設定のツアーに参加するか、会社に希望日を出して他参加者とマッチングしてくれるのを待つことになります。
しばらくやり取りした結果、旅行日程と合う四泊五日のツアーに参加できることになりました。
料金は宿泊するユルトのプライベート利用などオプション込みで1,450ドル(約22万円)。日程が短かくなるのは残念ですが、想定よりは安くすみました。グループで五日間も集団行動できるか不安です。
拠点の町オルギーへの移動方法
ツアーは拠点となるオルギーから出発します。ウランバートルからオルギーまでは飛行機で移動するのが一般的です。
僕としてはできれば陸路で行きたいのですが、直行バスでもウランバートルから27時間ほどかかります。昼間に移動しようとすると途中の町で宿泊するため更に日数が必要です。
そもそもモンゴルでは地方都市間の移動ニーズが非常に少なく、ウランバートル発着以外の長距離バスがほとんどありません。いちおう地方都市間はミニバス/シェアジープが繋いでいるようなのですが、英語だと情報がなく必要日数が読めません。
ツアー予約時には中蒙国境をどれくらいで抜けられるかもわからなかったため、妥協して往路は飛行機にし、復路を陸路移動することにしました。
ウランバートルからオルギーへのフライトは航空会社2社で合わせて週4便。航空券運賃はツアー代に含まれており、フライトに合わせたツアー日程を組んでくれます。
僕が乗るのはモンゴル航空のOM67便で、今日の朝7:25にウランバートル発です。
市内からチンギス・ハーン国際空港へ
航空券はツアー会社が確保してくれますが、飛行機が出発するチンギス・ハーン国際空港までは自力で移動する必要があります。
市内から空港へは車で一時間ほど。公共交通機関としてバスがあるものの、搭乗便の時間にはまだ運行していないためタクシーで移動します。
タクシーの手配は前もって一昨日26日にホテルにお願いしておきました。フロントに何時にホテルを出ればいいか尋ねると、「渋滞するかもしれないので朝5時くらい」とのこと。
そして、昨日27日の朝5時にモーニングコールで起こされるという軽いトラブルを経て今朝を迎えました。いや日付も何度も確認したし、ホテルの予約も今朝までなんだから分かるだろ……。
この時点でフロントはもう信用してないので、今朝は5時前に自分で起きてフロントに確認します。スタッフにタクシーの話をすると焦った感じでどこかに電話を始めました。これ忘れてたな……。中級ホテルでも期待したらダメそうです。
20分ほどして、改めて手配したタクシーが来たので空港へ向かいます。空港はウランバートルの郊外というか草原の中にあります。
6時過ぎに空港着。渋滞もなく思ったより早く来られました。運賃はホテル設定の固定料金で10,000トゥグルグ(約4,000円)でした。

飛行機でオルギーへ
空港カウンターでチェックイン。前にもタバン・ボグドへ行くと思しきトレッキング装備を持った欧米人グループが団体でチェックインしていて時間かかりました。
チンギス・ハーン国際空港はその名の通り国際線が中心で、国内線はすべて合わせても一日数便のよう。搭乗ゲートもたぶん一つだけです。
ターミナルから飛行機まではバスで移動しますが、乗客はバス一台に乗り切れる程度しかいません。バスで飛行機の搭乗口に着くと、ちょうど僕のバックパックが積み込まれるところでした。

座席はほぼ埋まっており、欧米人が2割くらい。日本人はたぶん僕だけです。僕の隣の席はたまたま空いていてラッキーでした。
オルギーまでは2時間15分ほどのフライトです。オルギーとは1時間時差があるため到着は9時ごろ。機内ではドリンクだけ出ました。
飛行中はずっと雲の上で外の景色は見えません。オルギー手前で雲の下へ入ると見渡す限り荒れた山々が広がっていました。

オルギーの町が見えてきました。オルギーはバヤン・オルギー州の州都で人口は5万人ほど。人口の9割以上はカザフ人で、普段はモンゴル語ではなくカザフ語を使っているそう。


飛行機は着陸するとそのままUターンして、着陸路を走って戻ります。一日一便以下ですし、今日はこの便が好きに使っていいんでしょう。

同行する他のツアー客も同じ飛行機に乗っているのかと思っていましたが、この便で来たのは僕だけでした。空港の駐車場でツアーメンバーと合流します。
ツアー客はスペイン人一人、スタッフはガイドさん、運転手さん、コックさんの3人です。採算とれるようもっと人数まとめているのかと思ったら客は僕含めて二人だけ。同行者が多くてカップルとか家族連ればっかりだったらきついなー、と思っていたのでだいぶ気が楽になりました。
簡単に挨拶を済ませて年季の入ったロシア車に乗り込みます。移動は4WDと聞いていたのでランクルとかかと思っていました。運転手によると「壊れても自分で直せるからこの車がベスト!」なんだそう。確かに窓も開かないしエアコンとかもないし、走ればいいだろっていうミニマルな作りです。

4WDでタバン・ボグド国立公園へ
空港を出てすぐに道路は未舗装となり、Google Map上で道のない山の中を通っていきます。まだ町を出たばかりですが凄まじい景色だな。携帯もすぐに繋がらなくなりました。



一時間ほど山の中をショートカットしてBiluuという町の近くへ出ました。ここからは公園の北エリアに向けて北上していきます。Google map だと幹線道路のような表示になっていますが、他の車の轍の跡を通っていくだけです。



3時間ほど走って、ホフホトル(Хөх хөтөл)という村に着きました。モンゴル語で「青い峠」みたいな意味らしい。中国の内モンゴル自治区にあるフフホト市(Хөх хот)も音が似ていますが、フフホトもモンゴル語由来で「青い城」という意味。

ここが公園前の最後の集落になります。これから数日は給油できるところがないため、車体と予備タンク満タンに給油します。

州の住民はほとんどイスラム教徒で、この村にも小さなモスクがあります。同行スタッフもみなイスラム教徒でしたがあまり厳格ではないらしく、一日五回の礼拝(サラート)とかはしていませんでした。

町に沿って流れる川を渡ります。当然、橋などはなく自然のままの川です。それにしても、そろそろ観光シーズンのはずですが他の車をここ数時間みかけません。飛行機には団体客も乗っていたのでもっと混んでいるかと思っていました。

途中の野原でコックさんが作ってきてくれたランチボックスを食べます。ちょっと風が強くて寒いものの景色は最高です。



オルギーからここまで、少し走るたびに風景の印象がけっこう変わります。同じ場所でも斜面の角度や高さがちょっと違うだけで植生も変わるので飽きません。

道(というか轍)はこんな感じ。路面は自然のままなので、場所によっては天井に頭をぶつけるくらい揺れます。



15時半ごろ、ようやく国立公園のゲート前に到着しました。今いるところもすでに国立公園のエリア内のようですが、ゲートから先はレンジャーの監視エリアになっているそう。今夜はここに宿泊して、明日はさらに先を目指します。
ゲート付近は宿泊エリアになっており、ぽつぽつと宿泊用のユルトが建っています。
来る前は「電気はないし携帯も繋がらない」と聞いていたのですが、携帯は繋がるようになっていました。電気も工事中で8月ごろには使えるようになるらしい。水道はないため、近くの川から汲んできた水をタンクに入れて使います。シャワーは使えないしトイレもボットン式です。

宿泊するユルトへ。僕はプライベート利用でお願いしたので一棟占有です。ベッドは六台あるのでちょっと申し訳なさを感じます。他のメンバーはみんなで一つのユルトに泊っていました。
中でごろごろしていると、宿泊先を探しているらしきモンゴル人が黙って扉を開けて入ってきました。ユルト間違えたのかなと思ったら、その後も同じグループのおばさんたちが入れ替わりでユルトの中を覗きに来ます。僕が泊まっているユルトで内見するのやめてください。


周辺を散歩します。夕方時点でも結構涼しく、風もあるのでウィンドブレーカーが必要なくらい。6月末ですがまだ残雪もありました。


公園内には遊牧民も普通に住んでいます。宿泊先のユルトも遊牧民が経営しているようで、周囲には家畜が放し飼いされています。宿泊エリアからちょっと離れたところで放牧している牧羊犬は噛んでくるから気をつけろ、と言われました。


夕飯はコックさんが作ってくれたダンプリング。ツアー中の食事はすべてコックさんが作ってくれますが、ユルトで食事を出してもらうのも一般的なよう。個人旅行なら移動手段さえ確保できればなんとかなりそうです。

さらに西に来たせいか陽が長い。21時過ぎにようやく夕暮れです。気温7度くらいでかなり冷えてきました。寝る前にはユルトのストーブに火を入れてくれ、だいぶ暖かくなりました。


夜に外へ出ると満天の星空でした。この日はうまく写真が撮れなかったので滞在中にリベンジしたい。
明日は中国・ロシアとの三点国境を目指します。