混沌と静寂のシュリーナガル高級ハウスボート滞在記

インド

サラーム!今回はカシミール地方の中心、シュリーナガル(Srinagar)を観光します。

シュリーナガルはかつて紛争や政情不安で「危険なエリア」という印象が強くありました。現在は治安対策が強化され、国内・海外から多くの観光客が訪れるリゾート都市としての顔を取り戻しています。

外務省の危険レベルもジャンムー・カシミール準州全体では3か4(管理ライン: LoC付近)ですが、シュリーナガルは2と危険地帯の中のひとひらのオアシスといった感じです。

といっても、別に安全ではないので不要不急の渡航は止めてください。

ソナマルグからシュリーナガルへ移動

ソナマルグ、シュリーナガルとも中心から離れたところにホテルを取ったため、タクシーをチャーターして移動しました。

途中のグンド(Gund)あたりの検問から、村の道端にアサルトライフルを持った軍人の姿が目立つように。緊張感が一段跳ね上がったのを肌で感じます。

シュリーナガルはこの辺りでは結構な都会のはず……ですが、なぜか幹線道路である国道1号線はシュリーナガルに近づくにつれ細く狭く、その辺の県道みたいになっていきます。

シュリーナガル市内に入ってからは、車一台通るのやっとのめちゃくちゃ入り組んだ路地裏を走って宿泊するホテルに到着しました。

静寂の高級ハウスボートに滞在

シュリーナガルといえば、湖に浮かぶ「ハウスボート」が有名です。

ハウスボートとは、元々はイギリス統治時代にイギリス人将校や役人たちがカシミールで優雅に過ごすために造られた滞在スタイルです。

19世紀ごろ、カシミールは避暑地として人気となっていましたが、当時の藩王(マハラジャ)は外国人による土地の購入を禁止していました。

そこで 「陸がダメなら水の上に建てればいいか」というイギリス人らしい発想で作られたのがハウスボートです。

元々は簡素な平底船が使われていましたが、だんだんと豪華なインテリアやカシミール伝統の木彫りのスタイルなどが持ち込まれ、今のゴージャスなスタイルとなったらしい。

現在もハウスボートが多く残っているのは、旅行者が集まるメインのダル湖(Dal Lake)と、少し落ち着いた雰囲気のナギン湖(Nigeen Lake)の二つです。

今回はナギン湖側に位置するITC系列の高級ハウスボート「WelcomHeritage Gurkha Houseboats」に泊まることにしました。

このボートでは一隻あたり四部屋ほどあるのですが、船の2階の舳先(へさき)をプライベートバルコニーとして使えるちょっといい部屋を予約して一泊約2.4万円。

滞在中 宿泊客は僕一人だけで、船まるごと一隻を貸し切り占有しているような気分を味わえました。

結構格式高いボートらしく、クリントン夫妻も訪れたとかで色紙が飾られていました。

……ただ、正直なところコスパは微妙です。

湖の上なので周りに気軽に入れる食堂はなく、食事はボートで食べることになります(一食1,000ルピー、約1,700円)。

料理は毎日変えてくれるものの僕から見ると全部カレー系ですし、ホームステイで出される家庭料理とそこまで大きな差は感じられません。舌の肥えた人が食べれば伝統的なカシミール料理の奥深いスパイス使いの違いがわかるのでしょうか。

ヤクニという羊肉のヨーグルト煮的なもの(写真左)。単体では辛くないし現地的にはカレーとは全然違う料理なんでしょうが……ご飯にかけた時に他のカレーと混ざるので結局カレー。

前にチェイル(Chail)で泊まったWelcomHeritageが良すぎたのでちょっと期待値をあげすぎていたかもしれません。

ナギン湖周辺には同じような高級スタイルのハウスボードが集まっているので、もっとコスパがいいところありそう。

カシミール絨毯工房見学

翌日。午前中はホテルのマネージャーに勧められて、敷地内にあるカシミール絨毯の工房見学へ。

「カーペットの歴史を勉強できるよ」という誘い文句でしたが、実際のレクチャーは最初の数分だけで残りの時間はセールスタイムでした。

まあ僕一人ではお土産物屋にはほとんど入らないので、たまにはこうして色々なデザイン見るのも楽しい。

これ以外にも、サフラン(カシミールのサフランは世界最高峰の品質で有名)の売り込みがあったりと割とセールス色は強めです。

この直接的なセールスを高級ホテルでやられると結構微妙だな。売りたいなら間接的に買いたくなるよう仕向けて欲しい。

伝統の小舟シカラでダル湖へ

夕方からは伝統的な木造小船「シカラ(Shikara)」に乗って、ナギン湖からダル湖まで行ってみることに。

ダル湖までは距離が結構あるため、今回はモーター付きのシカラをチャーターしました。

モーター付きは通常の手漕ぎシカラより割高で、往復三時間ほどで1,500Rs(約2,600円)。

船内にはお座敷のような座椅子がしつらえてあり、足を伸ばしてくつろげるのが最高です。

湖の上に出ると、水面を渡る風が驚くほど涼しくて心地いい。

シカラはカラプラ(Karapura)という半水上集落みたいなところを通り抜けていきます。

この辺は観光客のシカラは少なく、いかにも村人って人たちはもちろん、普通の会社員や学生っぽい人も手漕ぎの船で往来しています。

夕暮れの中、木造りの橋の上を歩くおじいちゃんや水浴びをする子どもたち、水面に浮かぶ葉の上を器用にトコトコ歩く水鳥などローカルな空気感がとても良い。

ダル湖に出ると、一気に視界が開けて観光地らしい華やかな賑わいに。湖畔の一角には軍人たちが集まっていて警備しており、この土地ならではの現実も垣間見えます。

シカラで水上野菜マーケットへ

翌日朝5時、まだ薄暗い中を出発して早朝の「水上野菜マーケット」へ。

途中で船を止めて船上でのイスラム礼拝タイムを挟みつつ、昨日も通ったカラプラ周辺の市場エリアに到着。

昨日と比べると市場目当ての観光客がたくさん集まっています。

一方、来ているローカルの船は数隻程度で、観光客や土産物売りのボートのほうが多いくらいでした。

ローカル民同士で野菜を物々交換している様子は一応見られましたが……もっと大きなマーケットを想像していたので肩透かし感は否めません。

もっとも、本当に流通として賑わっているなら陸上の近代的な市場に置き換わっていくのが自然ですし、これがありのままの現在の姿なのでしょう。

以前訪れたベトナム・カントー(Can Tho)の水上マーケットも、実態は観光維持の側面が強く、陸の市場のほうがよっぽど活気に満ちていたのを思い出しました。

シュリーナガル市内観光

昼からはオートリクシャーをチャーターして、シュリーナガル市内のモスク巡りへ。

ジャマー・マスジッド (Jama Masjid)

 一般的なドーム型モスクとは全く違うパゴダ風(寺院風)の建築様式です。

回廊は370本以上の巨大なヒマラヤスギの柱が整然と立ち並び、訪れた人々が思い思いに礼拝をしていました。

シャー・ハムダーン・モスク (Shah-e-Hamdan Mosque)

釘を一本も使わずに建てられた精巧な木造建築で、壁一面を埋め尽くすペルシャ風の緻密なタイル模様と彫刻が息をのむほど美しい。

内部は「アイナ・カーリー(Ayna-kari )」と呼ばれる豪華絢爛な鏡・ガラスモザイク細工で埋め尽くされています。

異教徒は内部への立ち入りは禁止ですが、入り口から写真は撮らせてもらえます。

ハズラトバル・モスク (Hazratbal Shrine)

ダル湖北岸に佇む、白亜の巨大なドームが青空に美しく映える聖地です。

周囲を一周しましたが全体像をいい感じに眺められるスポットが見当たらず。

シュリーナガルから次の街へ

翌日、次なる街へ向かうため鉄道のシュリーナガル駅を目指します。

駅へは宿から直接車で行くこともできますが、名残惜しかったので最後にもう一度シカラに乗って対岸へ渡り、そこからリクシャーを拾うルートを選びました。

湖を渡る無料シカラに乗り込み対岸へ。この美しい湖の風景も見納めか……と旅情に浸っていると、

「チップ!チップ!チップ!」

と背後から船頭が大声で連呼してきます。

余韻が完全に吹き飛びました。せめて船を降りてからにしてくれ。

シュリーナガルではこうした街の混沌とした賑わいと緊張感によって、ハウスボート内の安心感や静寂が引き立てられていると感じました。

シュリーナガルは大都市なので来る前はあまり期待してなかったんですが、喧騒と静寂、雑然さとローカル感の対比が印象的な街でした。

この後はヒンズー教屈指の聖地、カトラへ向かいます。