はじめに

旅行準備

会社を辞めてのんびりと世界を旅したい、そう考え出したのはいつの頃だったろう。

いつか将来の夢として漠然と抱いていた思いは、パンデミックで旅ができない期間を挟んで少しづつ大きくなっていった。元々の旅の予定は1〜2年。コロナが収束したらすぐに出発しようかと思っていた。しかし、旅に出られない間に旅行記やガイドブックなんかを調べるにつれ、行きたいところは徐々に増えていく。ともなって、旅程に必要な期間も3年、5年、10年と伸びていった。

10年も旅をするとなると、帰国後に今の生活に戻るのは不可能だろう。少なくとも金銭面ではそれなりの準備が必要だ。一方、年齢はすでに40歳に近く、残された時間は長くはない。

同年代で会社を辞めて行くのは、起業するとか、育児や介護とか、社会や家族のために何か価値のあることをする人たちが多い。いい年して本人以外には何の価値もない旅のために会社を辞めるのは少数派ではあるだろう。辞めるにしても、わざわざ危険な海外になんか行かなくても、安全な日本で温泉巡りでもすれば良いんじゃないだろうか。だが、ここで行かなければ死ぬ前に絶対後悔するだろう……。

そんなことを延々と逡巡し、旅を決意したのが3年ほど前。必要な準備を考え、出発は2025年とした。そして、その2025年がもう間近に迫っている。

せっかく旅に出るならその記録を残しておきたい。

初めての海外旅行は大学生時代のインド。当時はまだぎりぎりスマートホンもなく、3週間の旅の間は毎日紙のノートに日記を付けていた。卒業し就職した後も年に1-2回は海外旅行をしていたが、いつのまにか記録をつけるのをやめてしまった。

これまでの全ての旅で、辿った旅程やクライマックスとなるような風景は今でも鮮明に覚えている。だが、食べたものやふと通り過ぎた小道など旅の日常の光景は忘れてしまったものの方が多い。そして、ふとした時に思い出して旅情や懐かしさを感じるのはそんなありふれたシーンだったりする。

といっても僕自身は特に教養やスキルがあるわけではなく、旅自体も誰でもできる普通のものだ。当然、この記録も自分以外の人にとってはありふれた旅行記の一つだろう。Blogの体裁を取ったのは多少でも外部の目を意識することで、自分の体験や思考を言語化する動機にしたいというだけだ (そうしないとまた記録をつけるのをやめてしまうだろう)。

だが、自分が今後歳をとって自由に動けなくなった後でも、この記録を眺めることでこの旅を繰り返し追体験できるのではないだろうか。

旅行自体はもちろん、準備も含めた旅にまつわる全てが、10年後20年後の自分にとってかけがえのない思い出になっているはずだから。